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ホフマン方式宣言 


 ホフマン係数とライプニッツ係数 
逸失利益等を計算する際、中間利息の控除する方式としてはライプニッツ方式とホフマン方式があります。
※「赤い本」などでは「新ホフマン」と表示されていますが「旧ホフマン」は現在存在しないので、単に「ホフマン」と呼ぶことにします。
ライプニッツ方式は複利で中間利息を控除しますが、ホフマン方式は単利で中間利息を控除します。現在、民法では民事法定利率は年5%とされているので、その割合の利率で算定することになります。
ライプニッツ係数およびホフマン係数につき「赤い本」には「現価表」と「年金現価表」の2つが掲載されています。
例えば、10年の現価表ではライプニッツ係数は0.6139ですが、ホフマン係数は0.6666です。
10年の年金現価表ではライプニッツ係数では7.7217ですが、ホフマン係数では7.9449です。
年金現価表の数値は例えば10年では1年から10年までの現価表の数値を合計したものです。現価表は年金現価表の基礎となる数字です。
現価表でも年金現価表でも「ライプニッツ係数<ホフマン係数」となります。
つまり、逸失利益や将来介護料を算定する場合、ホフマン係数を使ったほうがライプニッツ係数を使うよりも有利になるということを意味しています。
※0.6139を年5%で複利で10年間運用すると1になるとするのがライプニッツ方式、0.6666を年5%で単利で10年間運用すると1なるとするのがホフマン方式です。
※例えばホフマン方式では、以下のような計算式で0.6666が1になります。
0.6666×(1+0.05×10)→1
年利5%の単利で0.6666の資産を10年運用すると1になるということですね。
※なお、1年では単利でも複利でも同じですから「ライプニッツ係数=ホフマン係数」です。2年以降から「ライプニッツ係数<ホフマン係数」という不等式が成り立つことになります。

 三庁共同提言 
最高裁は「ライプニッツ方式及びホフマン方式のいずれも中間利息控除の算定方法として合理性を欠くものではない」(昭和37年12月14日)と判断しました。
そのため、中間利息控除方式は裁判所によって異なっていました。
そこで平成11年11月に東京地裁・大阪地裁・名古屋地裁が「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」(三庁共同提言)を発表し、その中で「特段の事情がない限り年5分の割合によるライプニッツ方式を採用する」とされました。
この三庁共同提言以来、ライプニッツ方式が全国的に採用されることになります。

 利率に関する争い 
ホフマン方式でもライプニッツ方式でも年5分で中間利息を控除することは低金利時代にふさわしくないので(特にライプニッツ方式では現実と乖離する結果となります)、より低い金利で中間利息を控除すべきだという主張が被害者側から主張されることがあり、下級審段階ではその主張を認める判決が出されることもありました。
しかし、最高裁は平成17年6月14日に「民事法定利率の年5分による」とする判決を出し、利率の問題については解決がなされました。
年5分の民事法定利率は民法で定められており、遅延損害金の点では被害者に有利ですが、中間利息控除の面では被害者に不利になります。
遅延損害金だけ年5分で請求し、中間利息控除を年2~3分と主張することは「図々しい」という感じは確かにします(損害金と運用利益という違いはありますが)。
いずれにしろ、中間利息控除は年5分、ライプニッツ方式ということで実務は固まることになりました。

 新たな流れ 
民法(債権法)の骨格は明治時代に作られましたので、時代にそぐわない点も出てきていました。改正の必要があるというのが法律家の一般的な認識であり、改正作業が平成21年頃から始まりました。
「民法(債権関係)改正案」(以降、「改正案」といいます)が平成27年2月に法制審議会で承認され、同年3月31日に改正案が閣議決定され、第189回通常国会に提出されました。
法定利率についての改正案の内容は以下の通りです。
・法定利率を5%から3%にする
・3年ごとに見直す
・過去5年間60ヶ月の短期貸付利率の平均利率を算出し
・平均利率と1%以上の差が生じた時には
・乖離幅の1%未満を切り捨て、1%単位で変動させる
・発生した債権の法定利率はその後変動させない
・商法514条を削除し、商事法定利率6%を廃止する
ゴチャゴチャしておりますが、改正法が成立した場合、まずは年利3%で算定されることになります。
また、法定利率は中間利息の控除利率として適用されることが明示されましたので、被害者がより低い利率を主張することができなくなりました。

 改正法成立前後の不公平について 
法定利率5%の3%のライプニッツ係数ではどの程度逸失利益が異なるのか例を挙げてみましょう。
年収500万円の被害者で喪失率を100%とします。37歳から67歳までの30年間の逸失利益は以下の通りとなります。
5%の場合 500万円×15.3725=7686万円
3%の場合 500万円×19.6004=9800万円
非常に大きな差が生ずることになります。
損害は交通事故日に発生するのですから改正法の施行日より前ならば5%で施行日以降ならば3%となります。つまり1日の違いでこの差が生まれることになります。
改正法は第189国会で審議入りもしておらず、会期中に成立は困難と考えられますが、与野党の対立がある法案ではないので、近い内に確実に成立することになります。
このことは現在の実務である年利5%のライプニッツ方式は改正法施工後の算定よりも相当に不利になることを意味しており、現段階から不公平の緩和策を検討しておく必要がある言えます。
不公平を慰謝料で修正する考え方もありますが、もともと、慰謝料は精神的苦痛に対するものであり、また、基準額もありますので、慰謝料での修正は難しいと考えられます。

 ホフマン係数について 
私は上記不公平の緩和策として年利5%のホフマン方式を採用すべきであると考えております。
年収500万円、喪失率100%で30年間の逸失利益はホフマン方式では以下の通りとなります。
500万円×18.0293=9014万円
一般に 「5%のライプニッツ係数<5%のホフマン係数<3%のライプニッツ係数」ですので、不公平は相当是正されることになります。
なお、5%のホフマン係数、1%~5%ライプニッツ係数の大小関係については表とグラフで明確にしておきます。
表はこちら 
グラフはこちら

 ホフマン係数の判例、学説について 

西川はホフマン係数により逸失利益を訴訟で主張したことがありましたが、裁判所は「他事件との統一性」を理由として一蹴し、三庁共同提言の壁の厚さを痛感しました。
こうしたことから被害者側としてはライプニッツ方式を使わざるを得ないという事情があり、「ライプニッツかホフマンか」という争点で争われることは余りありません。しかしながら、ホフマン方式を認めた以下の判決かあり参考になります。

・札幌高裁平成20年4月18日
・福岡高裁平成17年8月9日
いずれの判決もライプニッツ方式ではなくホフマン方式によらなければならないとしております。
札幌高裁平成20年4月18日については最高裁はホフマン方式を採用したことは不合理なものと言えないと判示しております。

学説としては判例タイムズ1228号の大島眞一裁判官の論文があります。
2007年(平成19年)の論文ですが、その中で「・・・法的安定も重要な観点であり、軽々に中間利息の控除方式を変更すべきでなく、あくまでも長期的な視点に立って検討すべき事項と考えるが、これまで述べてきたとおりの金利情勢からすると、現在、ホフマン方式への変更を検討すべき時期に来ていると思う」とされております。
要は低金利時代にはホフマン方式がふさわしいということです。

このような貴重な示唆があったにもかかわらず、相変わらずライプニッツ方式が使われているのは被害者側弁護士が三庁共同提言の壁の厚さに怖気づき、ライプニッツ方式での算定を主張しているからです。
三庁共同提言から現在まですでに16年が経過しているにもかかわらず、低金利時代にふさわしくない年利5%のライプニッツ方式が未だに使われていることは私自身も含めて、弁護士、裁判官の怠慢というしかありません。

改正法案が国会に提出されたことを機に実務を変更することを弁護士も裁判官も考えるべきであると思います。示談交渉でホフマン方式が認められることはありませんが、少なくとも訴訟においては被害者側はホフマン方式を主張すべきと私は考えております。