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近親者介護料(常時介護)の考察

 近親者介護料算定の問題点 
重度の後遺障害が残存し、症状固定以後も被害者の常時介護が必要な場合、いわゆる将来の介護料」の問題が生じます。

将来介護費については「赤い本」では以下のように説明されています。
「職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円。但し、具体的看護の状況により増減することかげある」
「青い本(22訂版)」では「職業介護人の場合は実費全額、近親者付添は常時介護を要する場合で1日につき8000円~9000円」
「青い本(21訂正)」では「職業介護人の場合は実費全額、近親者付添は常時介護を要する場合で1日につき6500円~8500円」とされています。
「青い本」では平成22年に近親者介護料の基準がアップしたことが分かります。

以上の通り、現在では常時介護の近親者介護料は日額8000円から9000円とされておりますが、「赤い本」で説明されている通り、実際には「具体的看護の状況」により変化しますので、算定が困難であり、また、実際に上記基準の上下の額を裁判で認定されることも珍しくありません。

一方、職業介護人の介護料は「実費全額」であることは明確であり、また、「実費の額」は請求書等の形の明確な証拠が存在しますので、余り問題になることはないと考えられます。将来介護料については近親者介護料のほうが算定に難しさがあると言えます。

被害者側としては介護に要する時間が長時間であることや介護による精神的・肉体的ストレスが重大であることを理由として基準よりも高く認定されるべきだと主張しますが、加害者側はもともと常時介護というのはそのようなもの、つまりある程度近親者にとっては過酷なものであることを前提に基準額が決められているのであるから、基準額通りであるべきだ、あるいは基準額よりも低額であるべきだと主張することになります。
決め手のない議論のような気もしますが、検討すべき問題があることは間違いがありません。 

 近親者介護料が問題となる後遺障害 
常時介護が必要な後遺障害は多くは別表第1、第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に該当するものです。
遷延性意識障害、高次脳機能障害、脊髄損傷がその代表的なものです。

遷延性意識障害については個人により大きな差はないように思えますが、やはり軽重はあり、自発呼吸がなく人工呼吸器を装着しなければならないか否か、嚥下が可能叶か否かという点で相当の違いがあります。
高次脳機能障害の場合は様々なタイプがあります。例えば、知的・精神的能力が大きく失われている場合だけでなく、知的・精神的能力は比較的保たれてはいるが、片麻痺が高度な場合もあります。両者の違いは歴然としています。
また、脊髄損傷では上肢・下肢の四肢麻痺と下肢のみの麻痺とは大きな違いがあります。下肢のみの麻痺では車椅子で移動が可能であり、改造車を運転して介護者の付添い無しに病院に通院することが可能な場合もあります。

後遺障害が同じ別表第1、第1級1号に該当するからと言って、近親者の介護の量、内容は千差万別であり、「赤い本」で説明されているように「具体的看護の状況」が重要であることは明白です。
また、議論を進めていくためには、そもそも、何故、「常時介護」の介護料日額が8000円~9000円となったか知る必要があります。

 過去における近親者介護料の相場 
東京三弁護士会交通事故処理委員会編の「交通事故による損害賠償の諸問題」という書籍が手元にあります。これは「赤い本」の東京地裁交通部(27民)の裁判官の論文をまとめた古い書籍です。
昭和56年の裁判官の座談会で裁判官から以下のような問題提起がなされております。
「裁判例では1日あたり2000円~3000円、高いものでも1日5000円くらいとされている。1日つききりでいることも多い介護の実態からみて、介護者の休業損害相当金額を認めるべきでないか」
これに対する裁判官の回答は今では意味がないので省略しますが、昭和50年代では、介護料が高くて「1日5000円」であったということが分かります。

その後、介護料の基準がアップしたようで平成14年より前は「赤い本」では6000円で、それ以降は8000円になり、現在に至っています。「青い本」については詳細は不明ですが、「青い本」でも同年に介護料がアップしています。

 介護料の基準変更の根拠 
上記の通り、平成14年に近親者介護料が日額6000円から8000円にアップしましたが、それ以前の日額6000円という額は近親者の入院付添費の基準額と同額であることに留意する必要があります(なお、「赤い本」では近親者に入院付添費も平成14年に6000円から6500円にアップしています)。

この理由について「注解 交通事故損害賠償算定基準 上巻」(3訂版 ぎょうせい)、43頁では以下のような説明がなされています。
「これまでの将来介護費の基準額は入院付添いの基準額をそのまま流用してきた。しかしながら、将来介護費の場合は、入院付添いのような短期間ではなく、介護にあたる者の一生に影響を与える性格のものであること、また、介護保険制度が導入され、介護を親族の負担から社会的な負担にすべきだ(即ち、職業的介護を前提とすることになる)との価値観が強くなっていたことなどを考慮して、職業介護の水準に近づけるべきだとする考え方からこのような基準額が設定された」

私ならば以下のような説明をするでしょう。
「親族の介護は愛情の発露という面があり、経済的価値が低くて当然であるとの考えは昔の発想である。実際は介護される者のストレスを少なくしたり、将来に備えて出費を抑えることを目的として、止むをえず親族が介護をしているのである。端的に言えば、近親者は交通事故の加害者により意に反した介護を強制されているのであり、その点を勘案すると介護の経済的な価値を第3者がする場合に比べて低く評価する理由はない」

「入院付添費については現在の病院は完全看護(基準看護)となっているから、本来、近親者の付添は必要がない。そのため、仮に近親者が入院に付き添ったとしても付添費用は低額でしか認められない。一方、自宅での介護は病院と異なり、看護師等の介護が存在しないのであるから、介護料を入院付添費と同額とすることには理由がない」

ところで、「赤い本」の基準額である日額8000円はどのようにして決められたのでしょうか。恐らくは時給1000円、介護の時間8時間ということではないかと想像します。
平成14年段階では女性労働者学歴計の全年齢平均は年収約350万円です。日額に直すと約9600円です。介護は女性ができ、かつ主婦労働の額を上回らない額である時給1000円、また労働時間は労働基準法で決められた一日8時間を超えることがないとして8000円とされたのではないかと思います。

  職業介護人の介護料とは何か 
「赤い本」「青い本」では前記の通り、「職業介護人の介護料は実費全額」ということで一致しています。
職業介護人と言うとホームヘルパーを連想しますが、彼らの賃金が「職業介護人の介護料の実費」ではないことに注意する必要があります。

介護は利用者と介護事業者が契約を締結し、事業者が介護給付をします。介護保険等が適用される場合は、事業者は介護費用の一部を地方自治体に請求、残額を利用者に請求します。公費負担分と利用者負担分の合計額が「職業介護人の介護料の実費」ということになります。端的に言えば利用者と介護事業者の契約による介護料のことであり、明確に決まる額です。
なお、利用者と事業者の契約で介護報酬が決まるので原則的には額は自由ですが、公的負担がある場合は厚生労働省が基準額を決めており、自由な額ということにはなりません。

事業者が利用者にホームヘルパー等を派遣し、実際にはそうした介護労働者が介護に当たりますが、彼らには事業者から賃金が支払われます。
事業者は「職業介護人の介護料の実費」つまり介護報酬を得て事業を運営し、様々な経費を支払わなければなりませんが、経費の一部として介護労働者の賃金を支払います。
つまり、「職業介護人の介護料の実費」>介護労働者の賃金という不等式が成り立つことになります。
近親者の介護料が職業介護人の介護料に比べて低額であるという理由はここから導かれます。

ところで、近親者の介護は事業者を介入させないで行われるのですから、その介護料の経済的評価は介護労働者の賃金を参考にするべきであると考えられます。
前記の通り、「介護を親族の負担ではなく社会的な負担、つまり職業介護人による負担とすべきだ」という現在の価値観からもそのことが強く言えると思います。

 介護労働者の賃金
介護労働者の賃金については公益財団法人介護労働安定センターが公表をしています。
介護労働安定センターが言う介護労働者とは訪問介護職員、サービス提供責任者、介護職員、看護職員、介護支援専門員、生活相談員です。
平成25年の統計では労働者全体の平均的な時間給は1042円です。
ただし、時給700円未満の労働者も時給3000円以上の労働者もおり、ばらつきが大きいと言えます。
訪問介護員、つまりホームヘルパーに限って言うと時給1173円となります。
介護労働者の時給にバラツキがあるのは介護内容によって介護報酬の差が大きいからです。具体に言うと生活援助(家事援助)の報酬は低く、身体介護の報酬は高く設定されています。

生活援助(家事援助)とは体が虚弱で、日常生活は一応できるが、見守る目やちょっとした手助けが必要という場合で、具体的には炊事、洗濯、買い物といった家事を援助するものです。
身体介護は片麻痺、寝たきり、認知症、重度の障害者が対象ですが、着替え、おむつの交換、トイレの誘導、体の清拭など体に直接触れる支援のことです。

遷延性意識障害、四肢麻痺などの重度後遺障害者の場合は身体介護ということになるでしょう。
片麻痺等が軽い高次脳機能障害者については生活援助が中心ということになります。

 近親者介護料の算定方法
重度の後遺障害者で常時介護、しかも身体介護が必要と言う場合を考えます。
仮に近親者が12時間、介護のために自宅で拘束されるとすると
1万2504円~1万4076円となります。
1万2504円は時給1042円で1万4076円は時給1173円で算定したものです。

「赤い本」「青い本」では常時介護の基準額が定められていますが、介護の実態から見て感覚的に低すぎるという場合もあります。そうした場合、より高いという証明はなかなか難しいのですが、上記の手法が考えられると思います。

日額の要素として考慮すべきは
・時給
・介護のために要する時間
・身体介護か家事援助か
ということになります。

介護のために要する時間というのは障害者やその周囲の環境に異常が生じた場合、障害者が自ら解決手段を講ずることができない場合、単に見守っているという介護も含まれることになります。従って、一日24時間(当然、交替で)ということもある得ると考えられます。

3級程度の高次脳機能障害者の看視、見守り、声かけの介護料が日額3000円~6000円程度とする判例が多いことを勘案しますと、8時間は身体介護、残りの時間は看視、見守り、声かけの介護としますと、日額としては1万1000円~1万5000円ということになります。

いずれにしろ、この分野においては介護が大変だから日額8000円を超える、大変ではないから8000円未満という一種の「雰囲気」による議論がなされてはいましたが、何らかの数値的な根拠が必要なのではないかと考えます。

 介護労働者についての説明 H27.5.12補足 
介護労働者として訪問介護職員、サービス提供者、介護職員、看護職員、介護支援専門員、生活相談員が列挙されていますが、それぞれどのような仕事をしているのでしょうか。 

看護職員は看護師であり、説明の必要はないでしょう。

訪問介護職員はいわゆるホームヘルパーです。
高齢者、身体障害者(児)、知的障害者(児)、精神障碍者、難病患者等の家庭を訪問し、家事、介護その他必要な援助を行う援助職の人。介護保険では居宅サービスが実施されており、掃除、洗濯、食事の準備などの生活援助と食事、排泄、入浴など身体介護を行っています。

サービス提供者
介護事業者の常勤職員で利用者の訪問介護計画の作成、利用申込みの調整、訪問介護員に対する技術指導を行う者です。資格としては介護福祉士、ホームヘルパーということになります。

介護職員
介護保険法の指定を受けた訪問介護事業所で働き、直接介護を行う者を言います。利用者の家庭を訪問しない点で訪問介護職員とは異なります。

介護支援専門員はケアマネージャーのことです。
利用者や家族からの相談に応じ、介護保険給付サービスがニーズに即して効果的に実施されるようサービス事業者との連絡調整を行う人です。

生活相談員
介護老人福祉施設、短期入所生活介護事業所、通所介護事業所等に配置され、利用者の生活上の相談や助言、関係機関との連絡・調整などを行う人です。


※ホームヘルパーの制度改正について
ホームヘルパーは養成研修を受けて、3級、2級、1級の資格を受けることができました。必要な時間数を受講した人は修了証書を受け取ることがでかますが、厚生省の規定に従って、カルキュラムを終了したことを証明するためのものです。運転免許と違い、ないとできないという資格ではありません。
これらの資格は廃止され、平成25年4月より「介護職員初任者研修」に一元化されることになりました。これからホームヘルパーになる人は事業者の実施する「介護職員初任者研修」を受講する必要があります。
筆記による修了試験が課されており、これまでのように受講すれば貰える資格ではなくなりました。
なお、過去において2級の資格を持つ人は「介護職員初任者研修」と同じ扱いになります。