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実践 高次脳機能障害の被害者請求

 高次脳機能障害と後遺障害等級認定の重要性 
多くの弁護士HPでは高次脳機能障害の解説がなされていますが、どれも書籍に書かれているような一般的な解説にとどまります。もとより、高次脳機能障害の一般的知識を得ることは重要なことではありますが、損害賠償請求のためには、多くのHPにも書かれているような一般的な解説とは異なる次元の実践的な知識が必要と考えております。

高次脳機能障害の事案のヤマは訴訟ではなく、「後遺障害等級認定」の段階です。自賠責保険で適正な等級が認定されたならば、事件の半分は解決できたと言えます。残りの半分は訴訟です。それほど後遺障害等級の認定は重要です。

本稿で解説するのは、高次脳機能障害の一般的知識あるいは慰謝料、逸失利益、将来の介護費用という損害賠償理論ではなく、「適正な後遺障害等級認定のための実践的方法」です。

 被害者請求の重要性 
後遺障害の認定手続きには加害者側損保を通じて行う事前認定と加害者側自賠責保険に対して行う被害者請求とがあります。
どちらでするかというと「被害者請求」が正解です。事前認定で行う弁護士は高次脳機能障害について理解していないと言えます。
後遺障害等級の認定がヤマである以上、被害者側あるいは被害者側弁護士が責任を持ってすべきであるからです。
また、示談交渉せず、等級認定とともに自賠責保険金が被害者に支払われるので当面の生活費を得るという目的も果たすことができます。
以下、高次脳機能障害において、最も重要な被害者請求をする際の書類について説明をします。

 被害者請求のための書類 
どのような被害者請求でも支払請求書兼支払指図書、交通事故証明書、事故発生状況報告書、後遺障害診断書は必要です。
支払請求書兼支払指図書、交通事故証明書、事故発生状況報告書については高次脳機能障害に特別なものではないので説明を省略します。

高次脳機能障害では後遺障害診断書の外、頭部外傷後の意識障害についての所見、画像、神経系統の障害に関する医学的意見書、日常生活状況報告、意見書が必要となってきます。その他は通常の診断書、脳損傷又は脊髄損傷による障害の状態に関する意見書です。

高次脳機能障害の事案を日常的に手がける弁護士ならばこうした書類は手元にあります。書類が無いならば、経験がないということを意味しております。

書類については個別に説明することにします。

 後遺障害診断書 
・後遺障害の申請において、基本的な診断書です。
高次脳機能障害ならば精神的症状として注意障害、記憶障害、知能障害、遂行機能障害等が記載されることになります。
また、画像の所見も記載されます。

注意すべきは重度の高次脳機能障害では麻痺が生ずることがあり、その記載は極めて重要である点です。脳の右側が損傷すれば体の左側が麻痺し、脳の左側が損傷すれば体の右側が麻痺します。このような片麻痺が高次脳機能障害に伴っていることが多くみられます。脳損傷を原因とするもので、「身体性機能障害」と呼ばれます。
精神障害については臨床心理士が詳細な検査をしていることが多いのですが、相談事例や受任事例から、麻痺については存在しているにもかかわらず、後遺障害診断書に全く記載されていないか、不十分にしか記載されていないことがあります。
高次脳機能障害の等級はしばしば低めに認定されることがありますが、麻痺についての記載が不十分なことが大きな原因であると考えられます。
麻痺については上肢、手指、体幹、下肢について「プルンストローム・ステージ」か「サイアス」で数値的な評価が記載されることが必要です。

・派生的な後遺障害の診断書
高次脳機能障害では脳損傷により精神障害、身体性機能障害以外に派生的な症状が生じます。半盲、嗅覚・味覚脱失等です。そのため、眼科、耳鼻科等の後遺障害診断書も必要となることがあります。
また、高次脳機能障害の事案では骨折も生じていることが多く、整形外科の後遺障害診断書も必要となります。
このような派生的後遺障害については書籍「労災補償 障害認定必携」から等級を推測し、また、検査や添付資料を整えることになります。

 頭部外傷後の意識障害についての所見 
初診時の意識障害の有無、程度を明らかにする書類です。
自賠責保険で高次脳機能障害の後遺障害が残存したと認められるには、事故当初に意識障害があったこと、画像所見があることが必須です。そのための書類ですから極めて重要と言えます。

書類を作成して貰うのは初診時の医師ということになります。

この書類も正確に記載されないことがあるので注意が必要です。被害者本人や家族の認識とは異なる軽めの評価がなされることもあり、このような場合はカルテを取り寄せ、改めて作成して貰うことになります。

私の経験ですが、本人は事故当初から救急隊員に受け答えでき、明確な意識障害がないにもかかわらず、自賠責保険で高次脳機能障害が認められた例があります。それは外傷後健忘により、意識障害があったと認められたのです。自賠責保険では9級が認定されましたが、訴訟では7級が認定されました。意識障害が明確でない場合は、外傷後健忘に留意する必要があります。

また、私自身は経験がないのですが、「赤い本2017、下巻」184頁には「意識障害は、事故の外力による(一次性)びまん性脳損傷の場合は事故直後から発生するが、頭蓋内血腫や脳腫脹による(二次性)脳損傷の場合は事故から一定期間経過後に深まるという特徴があるとされる」とあり、この点も留意すべきと思います。

 画像
高次脳機能障害関係のHPには画像所見についての解説がありますので、そうしたことに興味のある方は他のHPを閲覧して下さい。
弁護士の中には画像を読めると豪語する方も存在しますが、私自身は画像を読むことも分析することも出来ませんので、より実践的なことを紹介したいと思います。

被害者請求の際、どの画像を提出するかが問題となりますが、私は基本的に病院で撮影したすべての画像の提出することにしています。骨折等が随伴している場合は、その画像も提出します。被害者請求ではすべきことを最初からやっておくことが大切です。それににより、結論が出るまでの時間の短縮するからです。
かつてはフイルムをコピーすると膨大な量となり、また費用もかかりましたが、現在はCDにコピーする方法が一般的となっており、費用も僅かです。

また、画像を入手するのは弁護士ではなく、被害者側であることに注意して下さい。被害者請求における弁護士の役割は書類を整え、自賠責保険会社に提出することであり、画像に限らず、資料の入手はすべて被害者側がすることになります。

病院から何のために画像が必要かと問われたならば、「訴訟のため」とか「損害賠償請求のため」とか答えず、「自賠責保険に後遺障害の認定をして貰うため」と言えば理解して貰えます。

※新しい撮像方法について
平成23年、損害保険料率算出機構内の委員会は「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告書)」で新しい撮像方法について以下の通りの報告をしています。
拡散テンソル画像(DIT)、ファンクションMRI、SPECT、PETは、「それのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない」としています。従って、新しい撮像方法により何らかの所見がみられたとしても後遺障害等級認定の段階では考慮されないことになります。

 神経系統の障害に障害に関する医学的意見書 
後遺障害診断書を作成した医師に作成して貰います。後遺障害診断書の内容をより具体的に記載した書面です。

画像所見、神経心理学的検査(臨床心理士の検査報告書が添付されます)、運動機能(麻痺の有無、程度の判定で重要です)、身の回り動作能力、認知・情緒・行動障害、社会・日常生活への影響、社会や学校等での適応状況が記載されます。

日常生活状況報告でも以上点は記載されることになりますが、神経系統の障害に関する医学的意見書と矛盾のないようにする必要があります。

 日常生活状況報告 
被害者の家族が作成する書面です。後遺障害診断書、神経系統の障害に関する医学的意見書は医師が作成するものですので、最小限の記載しかされておりません。高次脳機能障害については家族しか分からないことがあり、そうした点を記載することになります。
大抵は書くべきことが多く、所定の書面では書ききれないので、「別紙の通り」として、所定の書面以外の書面を使い書くことになります。
性格変化、麻痺、社会への適用状況等については医師よりも家族のほうが良く把握しており、そうした点を中心に記載することになります。

作成者は家族です。被害者本人は病識がないため作成することはできません。また、看護師、理学療法士等の医療関係者に作成させると「ここまでできるようになった」と良いことしか書かないので等級が低めに認定されることになります。

 脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書 
自賠責の書類ではなく、労災の書類ですので医師は作成しないというかも知れませんが、それならばそれで良いと思います。

何故、被害者請求で労災関系の書類を作成するかというと高次脳機能障害の等級に関しては自賠責保険より労災のほうが基準が明確であり、利用価値があるからです。
例えば、異議申立に利用することが考えられます。
また、訴訟では損保から自賠責が認定した等級よりも低い等級であると主張がなされる場合がありますので、そのための反論資料として利用できる可能性があります。
訴訟になってあわてて、医師に意見書を作成してくれと言っても、医師は作成しません。自賠責の書類にさりげなく紛れ込ませる形ならば、医師は抵抗なく、作成します。
以上の通り、異議申立や訴訟の準備のためのもので、被害者請求の際に提出することはありません。

 通常の診断書 
損保が病院に治療費を支払っているならば、診断書は損保が入手しており、被害者側は改めて診断書を入手する必要はありません。
しかし、高次脳機能障害の治療は長期化することがあり、損保は治療途中で治療費の支払いを打ち切ることがあります。そうしますと、その時点から症状固定までの診断書を損保は入手できません。そのため、治療費を打ち切った時点から症状固定時まで、診療上の空白期間が生じ、治療経過や症状の変化が分からないことになります。
通常の診断書が必要なのはその間の治療していたことを証明するためです。
損保がどの時点までの診断書を入手しているかは、被害者側には分かりませんので、損保から診断書のコピーを送付して貰うことになります。

 意見書 
重度後遺障害事案でも完全麻痺の脊髄損傷や遷延性意識障害は等級がはっきりしており、予想外の等級が認定されることはまずありません。
一方、高次脳機能障害は症状固定時の症状のみでなく、事故直後の意識障害や画像所見等を総合的に勘案して等級が認定されますので、予測がつきにくいと言えます。そのため、被害者請求の当たっては弁護士が適正な等級について主張を記載した書面を提出することが必要です。
しばしば、事前認定の際、損保側の顧問医が等級を低くするため意見書を出していいると言われることがありますが、逆の形での意見書と言えます。等級の認定を損害保険料率算出機構に任せっきりにするのではなく、被害者側弁護士がリードするためのものです。

意見書例