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示談までの流れ(人身)

人身事故の一般的な流れの解説です。細かいことは省略してあります。

目次

1 事故直後(数十分後)
2 事故直後(数日後)
(1)加害者が任意保険をつけていなければ
(2)加害者が無過失を主張したならば
(3)被害者の過失が大きいならば
(4)被害者と加害者が主張する事故状況が異なっているならば
(5)治療費について
(6)休業損害について
(7)被害者側保険会社について
(8)労災が使えるならば
3 治療中
・同意書について
4 治癒ないし症状固定の意味
(1)治療の終了
(2)症状固定とは何か
(3)鞭打ち症特有の問題
(4)治療の打ち切りとは、症状固定後の通院
5 治癒した場合
6 症状固定の場合
(1)後遺障害の事前認定をしない場合
(2)後遺障害の事前認定をする場合
・異議申立
・訴訟の先後
(3)後遺症等級が認定されたなら
7 示談交渉において注意すべき点(誠意の問題など)
8  示談以外の解決の方法
9  損保側弁護士が登場する場合
・損保弁護士の対応に問題がある場合
・直接、加害者と交渉することは
・委任状を見せろと言うことは意味があるか
・債務不存在確認訴訟、債務額確認調停を起こされたら

 

 1 事故直後(数十分後)  

事故当事者、事故目撃者が警察に通報、警察が現場に到着。
実況見分が開始されます。被害者が救急車で搬送されていた場合は、加害者のみが事故状況を指示・説明します。被害者からの指示・説明は後からと言うことになります。
実況見分は刑事手続の一環ですが、刑事手続は民事の手続(被害者・損保間の賠償交渉)とは別個に進みます。

被害者にとっては交通事故処理は分からないことだらけで混乱すると思います。事故経験者の意見をうのみにしたり、自分で勝手に判断したりせず、無料法律相談を随時利用し、進めて行くことが必要です。

後記の通り、労災を使うメリットがある事案もありますので、「何処から何処へ行く際の事故であったか」が被害者にとってまず重要であることに留意して下さい。

 2 事故直後(数日後)  

加害者が任意保険会社に連絡をしているので、任意保険会社担当者が被害者に面談に来ます。損保担当者が今後の流れを説明します。また、被害者から事故状況を確認し、治療費や休業損害について今後、どうするか話をします。

この段階で被害者は加害者側損保の担当者を頼りにすると言う傾向があります。全く何も分からない状態ですから、それも当然なのですが、被害者とは法律的に対立する存在であること、また、被害者のためではなく、会社のために仕事をしていると認識しておく必要があります。
損保担当者は利用をしても、頼らない、親切を期待しない、喧嘩もしない、と言う態度が重要です。

以後、損保担当者が加害者側の窓口となります。被害者に面談に来るのは、損保の社員では無く、損保から委託を受けた損害調査専門の会社の社員であることもあります。調査会社はリポートを作り、過失相殺等について意見を付記し、その意見に従って、損保側も過失相殺を主張します。

重症事故の場合は、事故直後の段階から、被害者としては、労災を使える事故ならば労災を使う方向で、また、労災が使えないならば社会保険を使う方向で損保担当者とも話し合いをすべきです。被害者としてはまだ事故について、冷静に考える余裕の無い時期ですが、この段階にお いて考えるべき最重要課題と言っていいでしょう。

注意点
(1) 加害者が任意保険をつけていなかったなら
自賠責保険会社は示談代行をしません。従って、被害者が加害者と直接、話をする必要があります。加害者の支払い能力が無いならば、加害者の自賠責保険に被害者請求をして、それで不足した分を加害者本人に訴訟等により請求することになります。

交通事故では任意保険無し、加害者支払い能力無しと言うのが最悪のパターンです。そして、多くの場合(大手の運送会社等は除くと言う意味)、任意保険をつけていない人は支払い能力が無いのです。

更に加害者が自己破産をしてしまったら、自己負担分については法律的にも支払いを免除されると言うことになり、正に被害者としては「泣き寝入り」と言うことにならざるを得ません 。

なお、2005年1月1日から施行された「新破産法」は非免責債権として「破産者が故意または重大な過失によって加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」が加えられました。 交通事故における過失は通常は「重大な過失」ではないため、非免責債権とされるのはレアケースと言えます。

なお、任意無保険の場合、自分の車の任意保険に無保険車傷害条項、人身傷害保険がついていないか確認することが必要です。この条項があれば自分の車の保険により保険金が支払われるからです。 上記の保険は被害者の保険会社が加害者に肩代わりして損害賠償金を払うと言う保険ですので(搭乗者傷害保険とは異なる)、被害者は煩わしい加害者との交渉をせずに済む事になります。交通事故では自分の保険の確認も大切なことです。

(2) 加害者が無過失を主張したなら
任意保険会社は動けません。加害者側の主張を前提とすれば加害者には支払い義務が無いので、保険会社としての仕事は存在しないからです。

(3) 被害者の過失が大きいならば
任意保険会社は動きません。自賠責保険のみで、被害者の損害は填補されるからです。被害者としては加害者側の自賠責保険に被害者請求をします。自賠責保険のみで損害が填補されない場合は残額を訴訟で請求することになります。 この場合、被害者が人身傷害保険(被害者に過失があっても、約款で定められた額を過失相殺せず、払われる保険)をつけていたならば、その利用の検討することになります。

(4) 被害者と加害者が主張する事故状況が異なっていたならば
些細な違いであれば問題にはなりません。問題なのは、双方が青信号で交差点に進入したと主張するような真っ向から言い分が対立する場合です。保険会社は加害者の代理人であるので、加害者の主張に法的に拘束されます。従って、この場合は(3)と同様な進め方をすべきです。
こうした場合は刑事事件とのからみが特に問題となります。警察や検察庁で言い足りないことがあった場合は、上申書を提出して言い分を補充する必要があります。

なお、傷害の程度が軽いならば、被害者は加害者車両の自賠責に対して被害者請求をすれば良く、賠償問題と言う面では多くの場合それで済んでしまいます。この種の事案は一見して、対立が厳しく訴訟でもしないと解決出来ないように考えている方もおられますが、軽傷の場合はさほどの問題は生じません。

(5) 治療費について
被害者に過失が無いか少ない場合は、保険会社が病院に直接、治療費を支払います。被害者の長期入院が予想され、また、過失相殺がある場合などは保険会社から健保・国保を使うように指示されますが、その指示に従っても問題はありません。

保険会社の負担が軽くなり、示談もより円滑に進むことが期待できるからです。保険会社の負担が軽くなるのは「けしからん」と、社会保険の切り替えることを拒む被害者もいますが、意味の無いことです。

注意点
「社会保険を使ったならば、示談のとき慰謝料で考慮する」と保険会社側は言うことがありますが、リップサービスと考えて良いでしょう。そもそも、慰謝料は精神的苦痛の対価であり、社会保険を使用したか否かで理論的にも額が異なる筈がありません。
被害者としては社会保険を使い、正当な額の慰謝料を請求するだけです。
保険会社と「言った言わない」の馬鹿馬鹿しい論争をすること避けるべきです。保険会社が「言った」ことを認めても正当な慰謝料の額よりも低いのが普通なのですから。

(6) 休業損害について
まず、被害者は収入を立証する資料を用意しなければなりません。
給与所得者の場合は、雇用主に休業損害証明書を作成して貰います。用紙は保険会社から交付されます。また、前年度の源泉徴収票が必要となります。
勤務先を変えた、勤務していた会社が倒産した等で源泉徴収票が入手出来ない場合は、役所から課税証明書を入手して収入の立証資料とすべきです。

また、給与所得者でも役員の場合は「役員報酬」か「給与」かの問題が生じます。 基本的に役員報酬は労働の対価、つまり「給与」では無く、利益の配当なので、就労ができなくても利益の配当はなされる筈であり、何ら損害は発生しないと言われているからです (利益配当がされないならば、役員が自主的に放棄したことになる)。理論的には確かにそうなのですが、名目は「役員報酬」だが、実質的には「給与」の場合もあり、また、その逆の場合もあり、なかなか、むつかしい問題です。

自営業者の場合は事故の前年度の確定申告書の写し、また、課税証明書を保険会社に提出します。自営業者であるのに、確定申告をしていない場合、過小申告をしている場合は問題が生じます。 示談交渉段階では保険会社側は認めないのが通常の処理ですし、また、裁判においても本当はもっと収入があったと言う言い分は認められる可能性は少ないと考えるべきです 。しばしば、家族〜人で普通に生活をしていたから、こんな収入が少ない筈は無いと言う言い方をされる方もおりますが、そうした論理は示談の実務や裁判では通用しないと考えていたほうが良いでしょう。

*赤字の個人事業主、小規模企業経営者の休業損害と逸失利益
これは難しい問題ですが、「赤い本」2014年下巻に松本真裁判官の論文が参考になります。

収入の立証資料については保険会社側は積極的に提出を要求しない場合もあります。損害の立証責任は被害者にあると言うことと、ヤブヘビになるのを避けたいと言う気持がその理由です。従って、被害者としてはみずから、積極的に休業損害が発生していると言う立証資料を提出する必要があります。

(7) 被害者側保険会社について
被害者側保険会社は加害者側保険会社と交渉をする等のことはありません(物損で過失相殺のある場合は別)。損保と言うのは被害者に対して損害賠償金を支払うのが仕事です。加害者に損害賠償金を請求するのは損保の仕事の中に入らないからです。しばしば、被害者の方が「ウチの保険会社は何もやってくれない」と言う不満を耳にしますが、当然のことです。

(8) 労災が使えるなら
労災が使えるならば使ったほうが良いと言えます。一般に「労災を使って得になることはあるが損になることは殆ど無い」と言われています。労災からの給付により加害者、保険会社からの支払いは少なくなりますが、トータルでは少なくなることはあり得ません。

労災が使えるのは業務中の事故だけでは無く、通勤中、会社から自宅に帰宅する際も含まれるので、かなり適用範囲が広いと言えます。被害者の怪我が重傷で、加害者が任意保険をつけていない場合や、被害者の過失が大き い場合は、労災を使うメリットは 大きいと言えます。従って、そうした事故においてはまず、労災を使えるかの検討をすべきです。 鞭打ち症、打撲程度の軽い怪我ならば、労災を使うメリットはそれほど大きくは無いでしょう。

労災を使うメリットについての補充

 3 治療中 

被害者は治療に専念します。治療費、通院交通費について自己負担分が出たら、月1回程度の割合で保険会社に請求をします。休業損害も同様です。

治療が長期化しないようであればまとめて最終的な示談の際に請求することになります。治療が長期化する様相を見せ始めると保険会社側は治療の見込み時期を尋ねるために医師と面談したり、文書で質問書(医療照会)を医師に出したりします。
医療照会は保険会社が病院に直接する方法と弁護士に依頼して弁護士会を通じてする方法があります。

(注)同意書について
被害者の方が治療中に同意書を保険会社から要求されることがありますが、それは
1 上記の医療照会のため 
2 後遺症認定手続きの際、レントゲン、MRI、診療報酬明細書を保険会社が取り付けるためです。

被害者の中には「同意書など絶対に書かない」と言う方もおられますが、私は同意書を作成するように被害者に指導をしています。
(医療照会の回答が被害者に不利な内容ならばそれはそれで仕方のないことです)

なお、損保の医療照会は「治療の打ち切り」「休業損害の打ち切り」を目的としているので、損保担当者は医師から損保に都合の良い意見を誘導尋問的に引き出す ような聞き方をします。従って、損保担当者が医師と面談する場合は被害者の同席を、また医師が書面で回答する場合は、被害者の承諾を得てから損保担当者に送付することを要求することが必要です(口頭の要求で十分でしょう。被害者が同意書に書き込むことはトラブルの元になります)。

しばしば同意書が無いのに医師が回答したことをもって、医師法やその他の法律に触れるのではないかと質問をする被害者もおられますが、損保側の調査の名目は適正な損害の支払いのためですから(真の意図はどうであれ)、違法だと言うのは無理でしょう。

 4 治癒ないし症状固定の意味 

(1)治療の終了
治療は(1)治癒、(2)症状固定の何れかで終了します。その他、病院に行かなくなったと言うだけの「中止」もありますが、これは治癒に準じて考えて良いでしょう。

(2)症状固定とは何か、その法的意味は
ところで、症状固定とは「投薬や理学療法によっても症状が一時的に改善するに過ぎない状態」です。傷病の本体は治療をしてもそれ以上改善しないから、「症状固定」以後は被害者は治療費を請求できません。休業損害も請求できなくなります。
被害者の中には治療を続ける限り、永遠に治療費(休業損害も)を加害者に請求できると誤解されている方も多く、この点はしっかりと頭に入れておくべきです。

上記の通り、症状固定時期は損害賠償上、極めて重要な意義がありますので、症状固定時期について被害者と保険会社間で争いになる場合があります。

(3)鞭打ち症の特有の問題
鞭打ち症(頸椎捻挫) では被害者の心理的要因や医師の漫然治療、医師や第3者からの重病感の植えつけにより、医師が長期に渡り、必要性の薄い投薬や牽引などの理学療法を延々と続け、なかなか症状固定としない場合もあります。それは表面的には被害者保護の目的にかなうものですが、他方、被害者が投薬や理学療法に対する依存性を高め、社会復帰が困難になると言う現実があります。
この問題は被害者にとって真に大切なのは 早期の社会復帰ではないのかと言う本質論から考えるべきことです。

(4)治療の打ち切りとは、症状固定後の通院
しばしば「治療の打ち切り」と言う言葉を使いますが、これは「症状固定となった」と言う意味です。「治療の打ち切り」と言う言葉から症状固定以降は治療が出来ないと思っている被害者もおられますが、健保・国保を使いつまり、治療費を自己負担して治療を続けることが可能です。

※症状固定の超長期に渡る先延ばし
症状固定を先延ばしにし、損保と音信不通の状態で何年も経過している事案があります。被害者が損保と音信不通の状況になっているのは被害者が損保を拒絶しており、損保がさじを投げていることが原因ですが、この手の事案には大抵、得体の知れない人物(知ったかぶりの素人)が関与しています。
こうした事案は時効になっている可能性があります。後遺障害が生じていても一般的な症状固定時期から時間が経過し過ぎているため医師が後遺障害診断書を作成してくれない可能性が大です。また、仮に後遺障害診断書が作成されても、損保から診断書に記載された症状固定日よりも前に症状固定しており、時効が成立していると主張される可能性があります。裁判所には通り易い主張です。
このような状態になる前に損保は治療費を打ち切ったり、弁護士を介入させたり、調停を申し立てたりします。被害者はそのタイミングで弁護士に依頼し、最終的解決を目指すべきです。しかし、そのタイミングを失し、弁護士に依頼しようとしても、弁護士にとってはリスクが大きく、受任することを嫌います。要は「弁護士が見捨てる事案」となります。症状固定の超長期に渡る先延ばしは大きなリスクが生じますのでこのような事態になることは絶対に避けなければなりません。

 5 治癒した場合  

示談交渉が始まります。治癒した場合は治癒までの期間の未払いの損害が示談金となります。被害者と保険会社で話し合いがまとまれば示談書を取り交わします。保険会社との話合いがこじれた場合は各種の相談機関で相談すべきです。また、紛争処理センター、日弁連交通事故相談センター、調停等、第3者機機関の利用も視野に入れるべきです。

 6 症状固定の場合 

(1) 後遺障害の事前認定をしない場合
通常、症状固定の段階で症状が残存していたならば、後遺障害の認定手続(事前認定)をしますが、頸椎捻挫などで自覚症状のみが残っている場合は認定手続をしても後遺症が認定されない場合が多いので、事前認定をせずに、示談交渉に入る場合も多いと言えます。示談金は治癒の場合と同様、症状固定までの未払い損害の合計額です。 保険会社との話合いがこじれた場合は、「治癒した場合」と同様に考えることになります。

(2) 後遺障害等級の認定
<事前認定の方法>
医師に「後遺障害診断書」を作成して貰います。その際、注意すべきことは症状がすべて不足なく書かれているかと言うことです。
後遺障害診断書が作成されたならば、任意保険会社に提出します。任意保険会社はレントゲンやMRIなども取り付け、損害保険料率算出機構(NIRO、旧自算会)に回します。
損害保険料率算出機構が後遺障害の有無・程度を判断し、その結果を任意保険会社に連絡します。更に、任意保険会社が被害者に連絡します。

なお、被害者の過失が大きい等の理由で任意保険会社が交渉の窓口となっていない場合は、被害者自らが自賠責保険に被害者請求の方法により後遺症等級認定手続きをとります。勿論、任意保険会社が交渉の窓口となっていても被害者請求は可能です。

*被害者請求と事前認定について
被害者請求は任意保険会社を通さないで直接、自賠責保険会社に等級認定を請求する方法です。等級認定と同時に自賠責保険金が支払われ、任意保険会社とは残額について示談交渉することになります。
被害者請求と事前認定のどちらが良いかですが、私は被害者請求のほうがベタ―であると考えています。しかし、被害者が被害者請求を知らないため、殆どの事案が事前認定の方法で処理されていると思われます。

<認定結果>
後遺障害が認定されなかったならば「非該当」、認定される場合は1級から14級までの等級がつきます。

<異議申立>
「非該当」の認定や認定等級に不服であるならば、異議申立をします。その際、どう言う理由でそうした結論が出されたのか分からなければ異議の申立てもポイントを外してしまいますので、保険会社から認定理由を記載した書面を貰う必要があります。また、認定が軽すぎることを証明するための客観的資料として、医師の診断書や意見書を添付するべきでしょう。

異議申立ての理由は認定理由に対応していなければなりません。被害者の方が自分で異議申し立てをする際、認定理由に対応していない場合が殆どです。認定理由では事故と症状の因果関係を否定しているのに、「症状が強くて働けない」「事故の衝撃が大きかった」などと言う理由で異議の申し立てをしている例が見られます。これは認定理由に対応していない典型例です。因果関係を否定した認定理由に異議申し立てをするには事故からどのような医学的メカニズムで症状が現れているのか明らかにする必要があるからです。

また、しばしば見受けられるものに14級に認定された方が自分の後遺症は4年も続いている、14級の逸失利益は3年と言うことになっているので、自分の後遺症は12級であると言うものがあります。このような異議申立は損害賠償の根本を理解していないので、通ることはありません。

後遺症の等級がどのような要件で認定されるか検討をせず、認定理由の字句、文言を攻撃するものも多く見られます。

医師に意見書を作成して貰う場合、異議申し立てが通らないことも想定して、意見書がそのまま訴訟にも使えるようにしておく考慮も必要です。後遺症性はあるにしても、自賠責の定める後遺症の要件には該当しない場合もあるからです。いずれにしろ、異議申立ては相当の専門的知識が必要とされます。

<訴訟との先後>
示談交渉をせず、最初から訴訟を考えている場合は、後遺症等級の認定後、異議申し立てをしているならばその結果が出た後にすべきです。 これは訴訟手続きにより等級認定手続きがストップしてしまうためです。弁護士でもこのあたりのことは分かっていないと被害者は考えていたほうが良いでしょう。それゆえ、弁護士の先走った行動を注意するのは被害者の役割と言うことになります。また、被害者請求をして自賠責保険金を手に入れるのを訴訟に先行してすべきか否かも検討の必要があります。

加害者側が債務不存在確認訴訟をする場合も同様です。後遺障害の残存が予想される場合、加害者側が認定をする前に債務不存在確認訴訟をしてしまうと、後遺症の有無・程度を訴訟で決めなければならず、加害者側、被害者側ともに多大な時間・労力を使わなければならないことになります。従って、加害者側弁護士が債務不存在確認訴訟をすると言っている場合は、「やるのは構わないが等級認定手続きを終えてからでないと、双方の負担が大きくなる」と伝えておく必要があります。

<被害者は何が請求できるか>
事前認定の結果が出た後、示談交渉が始まります。
示談金は「非該当」の場合は症状固定までの未払い損害で あり、示談交渉では後遺障害を請求することが出来ません。「非該当」だが後遺障害を請求したいと言う場合は原則として訴訟によることになります。
後遺障害が認定された場合はそれに後遺症損害(逸失利益及び後遺症慰謝料)を加えたものになります。

(3)後遺症等級が認定されたなら
後遺症損害については一般向けの書籍には機械的に計算できるかのような書き方がされていますが、そう単純ではありません。また、後遺症損害の額は大きくなることが普通なので(特に12級以上)、損保側としても如何にしてその額を抑えるか工夫を重ねた上で示談案を提示して来ます。

後遺症損害は損害全体に占める割合が極めて大きいのですが、被害者は交通費や雑費などの細かな損害に目を向けがちです。つまり、木を見て森をみていないと言う状態に陥っている場合が多いのです。等級が認定されたならば、弁護士などに法律相談をして、総合的な観点から事案を見直すべきです。

被害者は交通事故の解決は示談による解決しか無いと思い込んでいる場合が往々にしてありますが、死亡事故や後遺症の等級が認定された事案などは示談交渉をしないで、最初から訴訟をした方が良いこともあります。また、示談交渉をするにしても 弁護士に依頼して、紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターで解決すべき場合もあります。このあたりの問題については弁護士に法律相談をして方針を決めることになります。保険会社との話し合いを重ねることが意味があるのか無いのかは専門家で無いと判断が出来ないからです。

死亡事故、後遺症等級が認定された事案(特に12級以上)は弁護士に相談すべき案件であることに留意して下さい。相談のタイミングとしては保険会社からの示談案が出た段階、あるいは等級の認定が出た段階、死亡事故ならば刑事事件が終了した段階と言うことになりますが、ケースバイケースであり、早い段階から弁護士との関わりを持っていた方が良い事案もあります。

*等級認定を事前認定でした後の被害者請求
事前認定の結果が不満な場合、異議申立を被害者請求ですることが可能です。
また、事前認定で等級が確定した場合、自賠責保険金を被害者請求で請求することは可能です。

 7 示談交渉において注意すべき点  

損保側は加害者側の法的賠償範囲はどこまでかと言うことにしか関心を持ちません。つまり、「法の土俵」で勝負をしようとしているのです。損保側のこのような態度は被害者には冷たいと言う印象を与えるかも知れませんが、損害賠償と言うのはもともと、「法の問題」なのですから、正しいと言えます。

一方、被害者は加害者の誠意や謝罪、保険会社の対応の悪さと言った倫理的な点を問題とする傾向があり、「法の土俵」の外側の問題にこだわることが多いと言えます。加えて、被害者はどうしても何事も自分に有利に考える傾向があります。その代表例は過失相殺です。「人は転ぶと石のせいにする。石が無いと靴のせいにする」と言うユダヤの格言がありますが、なかなか人間は自分の落ち度を認めることが出来ないものです。

こうした被害者の独特の態度・視点(損保側は「被害者意識」と言う表現をします)は交渉を不必要に難航させる原因となります。私は本HPで弁護士への相談の重要性を強調しておりますが、これは損保の払い渋りに対する対策と言うだけではありません。
被害者の方が「法の土俵」に戻って考え、自分に甘い偏った視点を修正するには弁護士への相談が不可欠と考えているからです。示談交渉において被害者が損保の払い渋りを警戒すべきことは勿論ですが、同時に公平中立な視点から自分にとって都合の悪い点も冷静に受け容れると言う態度が必要になってきます。

また、何時までも加害者の誠意の無さや保険会社の対応の悪さを責め続けていては示談が出来ませんので、ある程度のところでそうした感情的問題にピリオドを打つ覚悟も必要となってきます。

 8 示談以外の解決の方法  

多くの方は交通事故の損害賠償問題は示談で解決するものと考えているようですが、示談による解決が不可能な事案、示談以外による方法がベターな場合もあります。事案によっては示談交渉をせず、訴訟提起が最善のこともありまます。このあたりのことは弁護士相談によって決めるしかありません。

 9 損保側が弁護士登場する場合  

加害者側は損保の担当者が示談交渉の窓口となりますが、弁護士に依頼することがあります。損保が依頼する弁護士は損保顧問弁護士ないし損保の協力弁護士です。損保側弁護士は形式上は加害者代理人と言う形ですが (書面は加害者本人の代理人と言う形式をとる、損保代理人と言う形式はとらない)、実質上は損保の代理人であり、報酬も損保から支払われます。

損保の代理人が登場する場合を代表例は以下の通りですが、それ以外にも様々な理由で特段、もめていない事案でも弁護士に依頼することがあります。

・加害者、被害者間で事故状況についての主張が異なっており、交渉が出来ない場合
事故状況についての主張の食い違いは無いが過失に関する評価が大きく違うもの
・事故状況からして負傷する筈がないのに被害者が負傷したと主張しているもの
・事故状況からして就労が不能となる筈が無いのに被害者が就労できないと主張している
もの
・休業損害の根拠(事故前の収入、就労不能の理由)が明確でないもの
・被害者が根拠の無い過大請求をしている場合
・被害者が法的に認められない損害を請求している場合
(典型例は物損における新車要求、全塗装要求)
・鞭打ち傷害で事故からかなり時間が経過しているにもかかわらず症状が固定しないもの
・被害者が「社長を出せ」等と無理難題を損保側に要求しているもの
・被害者が「損保は関係ない、加害者に直接、請求する」と言っているもの
・被害者が妙に細かく損保担当者が対応できなくなったもの
・被害者がアウトロー、または代理人にアウトローを選んだ場合
・被害者に既往症があり、損害の算定が困難なもの

被害者に非のある場合や法律解釈の誤りがあった場合は、それを正し、そうで無い場合は過失や損害の立証が問題となっているのですから、自分の意見を損保側弁護士に伝える必要があります。

損保側弁護士は「中立公平な立場」を強調するかも知れませんが、弁護士と言うのは基本的には依頼者の利益のために仕事をしているのです。「中立公平」と言う言葉に期待をしてはいけません。また、信じられないことですが、被害者の中には損保が「自分のために弁護士をつけてくれた」と思っている方がおりますが、そんな親切な損保は存在しません。

<損保側弁護士の対応に問題がある場合>
損保側弁護士の対応に問題がある場合は各弁護士会の窓口に苦情を申し入れたり、また、懲戒事由に該当するような事例では懲戒の申し立てをすると言う方法があります(懲戒申立のやりかたについては各弁護士会に尋ねて下さい)。
多くの場合、被害者と加害者代理人と言う立場の互いから加害者側弁護士の行為は被害者に心理的に苦痛を与えるものですが、だからと言って、ただちに懲戒事由に該当するとは言えません。 思い込みや怒りに任せて、懲戒の申し立てをしても意味はありません。懲戒を申し立てる際は、冷静になり、客観的にどのような行為が懲戒事由となるか調べたり、 また、弁護士会に相談した上でやるべきです。

<直接、加害者と交渉することは可能か>
被害者の中には「損保が弁護士を代理人とするのは認めない」と言う人がいますが、弁護士の依頼は加害者と弁護士の合意のみで出来るのですから、被害者が「認めない」ことは法律的には出来ないのです。
それ故、弁護士の頭越しに加害者に直接、請求をした場合は、「架電禁止・面接禁止の仮処分」を提起される可能性があり、刑事事件として告訴される可能性も生じてきます。

<委任状を見せろと言うことは意味があるか>
また、被害者の中には、弁護士に対し本当に加害者の代理人なのかと疑い、「委任状を見せろ」と言う人がおります。しかし、委任契約は委任状が無くても成立し 、また、弁護士が委任を受けず、勝手に動いても報酬は請求出来ないのですから、代理人と偽って動く弁護士がなどあり得ないと言えます。 従って、弁護士に対して「委任状を見せろ」と要求する被害者は弁護士の目から見るとかなり非常識な方と映ることになります。

しばしば、加害者から委任を受けていないのに損保側弁護士から手紙が来たと言って大騒ぎする被害者がおられますが、被害者の勘違いと考えて間違いはないでしょう。弁護士に委任したことを非難する被害者に対して、加害者がその場を収めるためにごまかすことは珍しくはありませんし、加害者がごまかしたからと言って、弁護士との委任関係が解消するわけでもありません。こうしたことにこだわるのは時間の無駄です。

<債務不存在確認訴訟、債務額確定調停を申し立てられた場合>
調停の場合は話し合いが可能であるとの含みがあるので、簡易裁判所に出頭すべきです。被害者は簡易裁判所で自分の言い分を整理して簡潔に調停委員に伝え、調停委員を介して、解決を目指すのがベターです。調停手続きに被害者が出頭しない場合は、債務不存在確認訴訟を提起されると覚悟しておくべきです。

債務不存在確認訴訟を提起されたならば、反訴を提起すべきです。反訴を提起してもしなくても、被害者側が加害者側の過失や自分の損害を立証しなければなりません。であるならば、被害者は自分には正当な損害賠償請求権を有していると裁判所にアッピールするためにも反訴を提起するのがベターと言うことになります。逆に、被害者が反訴を提起しない場合、裁判所は「本当は被害者に損害が生じていないのではないか」と言う疑問を抱くことに留意すべきです。

いずれにしても、債務不存在確認訴訟を提起されたならば、弁護士に相談して対策を講じなければなりません。